パレルモで出会った宝物、バレーナの“守り神”トリナクリア。

壁に飾られた不思議なモチーフ

 

私のお店「湘南藤沢のイタリアンレストラン・バレーナ」に飾ってあるユニークなオブジェについて、今日は少し紹介したいと思います。店内の壁に目を向けると、三本の脚を放射状に伸ばし、中央にはメデューサのような顔、そして蛇と翼があしらわれた印象的なモチーフがあります。これは「トリナクリア(Trinacria)」と呼ばれるシチリアのシンボルで、私がパレルモを訪れた際に一目惚れして、そのままハンドキャリーで日本へ持ち帰ったお気に入りの一点です。

 

「トリナクリア」が意味するもの

 

「トリナクリア」という言葉は、ギリシャ語で「三つの岬」を意味し、地中海に浮かぶ三角形の島シチリアを象徴しています。三本の脚はその島の形を表現しており、それぞれの方向がシチリアの主要な岬に対応しています。中央に描かれた顔は、ギリシャ神話に登場するメデューサや、大地母神デメテルを由来とするとも言われ、シチリアが持つ豊穣や生命力の象徴でもあります。翼は繁栄を、蛇は知恵を表すとも解釈され、まさに島そのものを凝縮したアイコンなのです。

 

パレルモでの出会い

 

私がこのトリナクリアに出会ったのは、パレルモの旧市街にある小さな職人工房でした。石畳の路地に立ち並ぶ陶器店や民芸品の店を覗いて歩くのが旅の楽しみだったのですが、その中でひときわ目を引いたのが、この鮮やかなオレンジと緑の色合いをもつトリナクリアでした。職人の手仕事らしい温かみと荒々しさが同居しており、眺めるだけでシチリアの太陽と大地の匂いが蘇るような感覚を覚えました。

 

ハンドキャリーで持ち帰った理由

 

通常ならばスーツケースに入れて送るのが一般的でしょうが、このオブジェはあまりにも気に入ってしまい、割れるのが心配で、私は手荷物として大切に抱えて帰国しました。飛行機の中でも、乗り換えの空港でも、まるで宝物を持ち運ぶように気を使いながら運んだ思い出があります。その分、日本に戻って「バレーナ」の壁に掛けた瞬間、空間が一気にシチリアの空気に染まったような感覚があり、嬉しかったです。

 

店の象徴としてのトリナクリア

 

このトリナクリアは、私にとって単なる装飾品ではありません。バレーナが目指す「イタリアの食文化を湘南で届ける」という思いを具現化したシンボルでもあります。シチリアは多様な文化が交差して育まれた土地であり、アラブやギリシャ、スペイン、フランスなどさまざまな影響を受けながら独自の料理と文化を発展させてきました。その背景は、私が料理を通じて届けたい「多様性の中に宿る豊かさ」と強く響き合います。

 

お客様との会話のきっかけに

 

お店にいらしたお客様がこのトリナクリアに目を留め、「これは何ですか?」と尋ねてくださることもよくあります。そのたびに私はシチリアでの旅の思い出や、このシンボルの意味を語ります。会話のきっかけとなり、料理だけでなく文化や歴史についても共有できることが、何より嬉しい瞬間です。食と文化は切り離せないものですから、この小さなオブジェがそうしたつながりを生む“語り部”になっているのだと思います。

 

シチリアの風を湘南に

 

シチリアを訪れた方ならきっと共感していただけるでしょうが、この島には「また必ず戻ってきたい」と思わせる独特の魅力があります。地中海の青い海と空、豊かな食材、人々の陽気さ。そしてこのトリナクリアは、そんなシチリアのエネルギーを一枚の盾のように閉じ込めた存在なのです。だからこそ、バレーナの空間で輝き、訪れる人々に「旅心」を呼び覚ましてくれるのでしょう。 

 

湘南という海辺の街で、シチリアの風を感じられる場所をつくりたい。その思いを形にしてくれる象徴として、このトリナクリアは私にとって欠かせない存在です。料理とともに、お客様にイタリアの食の豊かさを届ける──その願いを込めて、今日もこのオブジェは店内の壁から静かに見守ってくれています。

 

 

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