老舗とんかつ屋の息子が語るとんかつ愛 ― パン粉編

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは。イタリアン「バレーナ」のオーナーシェフであり、北海道帯広市の老舗「とんかつのみた村」の息子でもある僕がとんかつ愛について語るシリーズです。笑

イタリアンとは全然関係ないですが

読んで頂けると嬉しいです。

 

とんかつの第一印象は「衣」で決まる

 

「とんかつを作るとき、一番こだわっているのはどこですか?」と聞かれたら、迷わず「衣」と答えます。もちろん肉の質や火入れも大切です。でも、口に入った瞬間にまず感じるのは衣。つまり「とんかつの第一印象」を左右するのはパン粉なのです。衣がサクッと軽ければ口の中に広がる幸福感は倍増し、逆に重たく油っぽければどんな上質な肉も台無しになってしまう。だからこそ、僕にとって衣は“とんかつの顔”そのものです。

 

 

子供の頃の記憶 ― パン粉作りの手伝い

 

僕の原点は子供の頃の記憶にあります。玄関先に並んだ大量の食パン。数日間ある程度水分を飛ばして、それを機械にかけて生パン粉を作るのを、両親の手伝いとしてよくやっていました。あの頃は正直「なんでこんなに大変な作業を毎日するんだろう」と思っていましたが、今になってわかるのです。あの“ひと手間”こそが、みた村のとんかつを唯一無二のものにしていたのだと。

 

生パン粉と乾燥パン粉の違い

 

まず基本から整理しておきましょう。生パン粉とは、乾燥させていないパン粉のこと。JAS規格でも「含水率が高い=生」と定義されています。

乾燥パン粉は、その名の通り水分を飛ばし、保存性を高めたものです。

生パン粉の魅力は、揚げた時の「ふくらみ」「軽やかさ」「サクッとした口どけ」。中はジューシー、外はサクサク

まさに理想のとんかつを実現するための立役者です。ただしデメリットもある。乾燥していないため保存性が低く、管理に手間がかかる。それでも僕は迷わず生パン粉を選びます。なぜなら「揚げたて一口目の感動」を最大化できるのは、やはり生パン粉だからです。

 

粒度(挽き方)が生む違い 

 

次に大事なのが「挽き方」。パン粉の粗さによって衣の仕上がりは劇的に変わります。

荒目(10〜15mm):粒が大きく空気を含みやすい。揚げると衣が“花が咲いたように”立ち上がり、見た目も豪快。サクサク感が強く、ボリューム感のあるとんかつに最適。ただし油を吸いやすい一面もある。 

中目(5〜7mm):程よい粒度で食べやすさとボリュームのバランスが取れる。荒目ほど重くならず、万人に好まれる仕上がり。

細目(1.5〜3mm):衣が均一につき、薄付きで軽い食感。油切れも良いが、立ち上がりや迫力には欠ける。

僕の好みはやはり「荒目」。とんかつを割った瞬間に立ち上がる衣の剣立ち、噛んだときのザクッとした歯ざわり――あれこそが“本物のとんかつ”の証だと思っています。

 

パン粉の種類と表情

 

市場には実に多様なパン粉があります。例えば「焙焼式」と呼ばれるものはパンをオーブンで焼き上げて作るため香ばしく、口どけがよい。逆に「電極式」は電流で焼成するので効率的でコストを抑えやすく、揚げ色が均一につく。最近は「低吸油タイプ」や「国産小麦100%・無添加タイプ」などもあり、用途やスタイルに合わせて選べます。

僕自身はやっぱり香ばしさと甘みを優先するので、焙焼式の荒目生パン粉を選びますね。あの口に入れた瞬間の「ふわっとした小麦の甘みと香ばしさ」は、肉の旨みと最高に合うんです。

 

 

僕にとってのパン粉とは 

 

とんかつは「肉×油×衣」の三位一体の料理です。肉の火入れを極めるシェフは多いですが、僕はそれ以上にパン粉にこだわりたい。なぜなら、とんかつの第一印象は衣で決まり、最後まで食べた後の余韻も衣が左右するから。

子供の頃、両親が黙々とパン粉を作っていた背中。その努力が「みた村のとんかつ」を唯一無二にしていたことを、今の僕は理解しています。

今、僕自身も料理人として歩んでいますが、そのDNAはしっかりと受け継がれています。もし僕がとんかつ屋をやるなら、パン粉を粗目に挽き、剣立ちのある衣をまとわせ、揚げたてを口に入れた瞬間の感動をお客様に届けたいと思います。

 

次回は「油」について語ります。とんかつを支えるもう一つの要――最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

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